先進セルロース材料共同研究講座では、セルロース原料としては木材等の植物素材を利用する技術開発を行っています。セルロースは、ほとんどの植物に含まれています。セルロース分子は、基本的にブドウ糖(グルコース)のみが鎖状につながって構成されている。デンプンの成分であるアミロースやアミロペクチンの分子もブドウ糖(グルコース)から構成されています。
木材等では、セルロース以外に、ヘミセルロース、リグニンが主要成分です。ヘミセルロースも分子が糖類で構成されていますが、樹種等によって糖の種類が異なっており、全く同じ分子構造のヘミセルロースは存在していません。ヘミセルロースは特定の物質を指すものではなく、グループ名です。ヘミセルロースには、構成糖の違いにより、キシラン、マンナン等があります。
セルロース分子は生合成されると、直ちに規則正しく集合して、セルロースミクロフィブリルを形成します。このミクロフィブリルが、近年、関心を集めているナノセルロース(セルロースナノファイバー)の基本です。ミクロフィブリルはさらに集合・積層することで、木材組織が形成されます。その力は、弱い結合と言われている水素結合や分子間力です。そのため、基本的には、「ほぐす」ことで木材からナノセルロースが製造できますが、簡単には進みません。(※そのためナノセルロースは製造コストが高い)
木材の強靱さは、ミクロフィブリルの積層構造が大きく影響しています。樽や桶は、板を並べて、それを外側の「タガ」で縛りつけています。木材の細胞壁で最も厚いのは二次壁ですが、二次壁は外側からS1、S2、S3層と分かれており、それぞれの層で、ミクロフィブリルの方向が異なっています。最も外側のS1層は内側の配向したミクロフィブリルを縛りつける構造となっており、木材の強靱化の要因でもあります。
木材の主要成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンです。セルロースはブドウ糖(グルコース)が数百から数千個がβ1-4結合で鎖状につながった構造です。そのためセルロースは平板状の構造になります。デンプンの構成成分のアミロースやアミロペクチンもグルコースで構成されていますが、結合様式は、α1-4結合のため、特性が全く異なっています。アミロースは、らせん状構造になります。
ヘミセルロースは、様々な糖がつながった構造をしています。植物の種類により、糖の種類や結合様式が異なっています。そのためヘミセルロースはグループ名であり、特定の物質を指しているわけではありません。主要な構成糖により、キシランやマンナン、グルコマンナン等があります。上図には、広葉樹が含んでいるヘミセルロースの構造例を示しています。主鎖は、キシロースから構成されており、枝分かれ構造があります。全く同じ構造のヘミセルロースは理論的には存在していません。
リグニンは、セルロースやヘミセルロースのように分子が糖で構成されておらず、芳香族系化合物です。植物種により、リグニンの代表的構造が異なっています。しかし、リグニンの基本単位(モノリグナール等)がランダム重合した物質であるため、全く同じ構造は理論的に存在していません。
セルロースは紙や繊維等として工業的に製造され市場に普及していますが、ヘミセルロースやリグニンは構造が完全に一定ではないことが、工業的利用の妨げになっているとされています。
木材の主要成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンです。このうち、セルロースは結晶性のポリマーです。セルロース結晶の本体は、セルロース分子の規則正しい集合値であるセルロースミクロフィブリル(ナノセルロースの基本)です。このナノサイズのセルロースミクロフィブリルはナノ結晶体であり、木材組織は、このナノ結晶体が集合して形成されています。
我々は普段、物質の結晶性の評価や同定では、粉末エックス線回折装置(広角エックス線回折装置)をよく使用します。一般的に、広角エックス線回折で得られるデータは、1nm以下の領域の分子や原子の並び具合を反映しています。つまり、広角エックス線回折では、ミクロフィブリルの状態の情報が主です。ナノセルロースは、木材組織をミクロフィブリルにほぐすことで、製造されています。つまり、ミクロフィブリルでのセルロース分子鎖の配列が変化しない限り、丸太でも、木粉でも、ナノセルロースでも、理論的には結晶性は同じです。<br>
木材を複合材料等として利用する場合、丸太を粉砕等によりサイズを小さくしますが、広角エックス線回折で測定して結晶性が低下している場合は、ミクロフィブリルにダメージが発生していることが考えられ、ミクロフィブリル本来の物性も低下している可能性があります。木炭製造や複合材料等の作製では、セルロースの結晶性の変化にも注意が必要です。
※広角エックス線回折法で、木粉やナノセルロース(木粉から直接製造し精製等は行っていない場合)を、そのまま測定した場合、得られたデータには、ヘミセルロースやリグニン等の非晶性物質からの回折パタンー(ハローパターン/20度付近に山を持つブロードなパターン)が含まれているため、セルロースのみの結晶性よりも低い値となります。セルロースのみの結晶性を算出するためには、非晶質成分からのハローパターン等を実測データから除く必要がありますが、得られた結果の誤差が大きくなる場合が多いため、直接測定によるデータがそのまま使われる場合が多いです。セルロースの結晶化度を計算した場合には、「見かけのセルロース結晶化度」等の注釈が必要です。
木材の主要成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンです。セルロースとヘミセルロースは、分子が糖で構成されています。セルロースは分子構造が一定で結晶性物質であり比較的安定ですが、ヘミセルロースには、様々な種類があり、構造も様々です。ヘミセルロースと言っても特定の物質を指すことはできません。あくまで総称です。ヘミセルロースには、側鎖に酢酸を持っているものがあります。その多くは、エステル結合等でつながっています。
セルロースは安定な物質ですが、水が共存する状態で熱を加えると230℃付近から急激に加水分解します。水がない状態でも分解は発生します。ヘミセルロースは、構造が一定ではないため非晶性で、140℃付近から、急激に加水分解します。
セルロース等の植物系素材には、必ずと言って良いほどヘミセルロースが含まれています(綿は極わずか)。セルロース系樹脂複合材料を製造する場合、セルロースやヘミセルロースの耐熱性から、溶融混練等は、200℃以下で実施される場合が多いです。200℃以下で溶融混練や成形加工が可能な代表的樹脂は、ポリエチレンやポリプロピレンです。これらの樹脂は、工業的に多く使われており、家電や自動車部材にも多く利用されており、この2種類で国内の樹脂の半分を占めています。そのため、耐熱性が低いセルロース系素材でも、複合材料としての展開は可能です。
しかし、ヘミセルロースの分解温度が140℃だと、この温度以下で溶融混練や成形加工が可能な樹脂種は少なく、極めて利用が難しくなります。そのため、多くのセルロース系複合材料では、ヘミセルロースの分解はさておき、200℃程度での溶融混練・成形加工が実施されています。
しかし、ヘミセルロースが分解すると、様々な弊害が起きてきます。プリンにかけてある「カラメル」は香りもよく、美味しくする添加物としてよく知られていますが、「カラメル」は糖の分解物です。糖が脱水反応等するとカラメル分子になります。その構造は様々です。セルロース系樹脂複合材料を作成した場合、プリンのカラメルよりさらに反応が進む場合があり、美味しくない香りになります。家電や自動車部材など、密閉空間でしようする製品は、人の好みもあり、無臭が基本です。そのため、セルロース系樹脂材料では、ヘミセルロースの少ない原料(精製パルプやコットン等)が使われたり、ヘミセルロースの分解を抑制する添加などについて研究開発が進められています。
さらに、ヘミセルロースが分解すると酢酸等の有機酸が遊離してきます。木酢液や竹酢液は、それら有機酸の水溶液です。酢酸等は、弱い酸と言っても、やはり酸なので、色々なものが影響を受けます。添加剤が分解したり、混練装置や成形装置、金型等の表面が腐食したりします。
セルロース系樹脂複合材料の複合化や成形加工条件が適切でない場合、作製したペレットや成形品は、酸っぱいカラメル臭がします。これらは完全に抑制することができてはおらず、セルロース系樹脂複合材料の今後の課題となっています。
木材の主要成分であるセルロースとヘミセルロースは、分子が糖で構成されていますが、共通することは多糖類と言うことだけです。「木材成分の基本構造」でも説明したように、セルロースとアミロース(デンプンの主成分)とでは、同じ糖(単糖)であるグルミース(ブドウ糖)から構成されているのに性質が全く異なっています。
セルロースは基本的に1種類の糖(グルコース)から構成されていますが、ヘミセルロースは様々な糖から構成されている多糖類です。セルロースと言う名称は、ある特定の物質を指しますが、ヘミセルロースは様々な多糖類のグループ名(総称)です。世の中に、同じヘミセルロースは存在していません。
[※セルロースも厳密に言えば、分子量も様々で、結晶性も様々なので、世の中に同じ物はありません]
そのようなヘミセルロースですが、広葉樹や針葉樹などで、ある程度はヘミセルロースの構造は類似しています。広葉樹には、キシランに分類されるヘミセルロースが多く存在しています。キシランの主鎖の構成糖は、分子中の炭素が5個のキシロースです。その他、上図に示すようにキシログルカン、マンナン(こんにゃくの素)、グルコマンナンなど多数が存在しています。ある程度の部分は構造が同じでも、側鎖が付いていたり、枝分かれがあったりするなど構造は様々です。ヘミセルロースはその主要構造からいくつかに分類されていますが全く同じ物はありません。また、特性もそれぞれで異なっています。
「ヘミセルロースは邪魔者?」の項でも書きましたが、ヘミセルロースが分解して生成する酢酸糖の有機酸は、エステル結合等でヘミセルロース(上図ではキシラン)につながっていた部分が加水分解して遊離してきます。
「ヘミセルロースが○○なので△△しよう・・・」等と話をする場合もあるかもしれませんが、どのようなヘミセルロースなのか、原料の樹種は何なのか等も考慮しないと、ヘミセルロースもそれぞれで特性が異なっているため、処理等が進まない場合もあります。
木材成分組成の分析と言うと、主要成分である、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの他、香気成分であるテルペン類や無機化合物を分析する場合が多いです。上図のように、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、抽出物、灰分の量を調べます(分析法の概要は下記に示しています)。
前項「ヘミセルロースの種類」において、ヘミセルロースには色々な種類があり性質も異なることをご紹介しました。性質が異なると言うことは、化学的性質も異なり、溶媒への溶解度も異なってきます。上図は、古典的な考えたかですが、ヘミセルロースAは水に不溶なヘミセルロース、ヘミセルロースBは水溶性のヘミセルロースとして分類されています。水への溶解度だけの指標のため、水溶性の画分には大きく低分子化したセルロースオリゴマーや他のヘミセルロース類も混在しています。また、アルカリ水溶液への溶解度の違いでも、ヘミセルロース1やヘミセルロースUと区別されています。上図では、水溶性ヘミセルロースとしてキシランを例に書いていますが、キシランが多いと言うだけで、他のヘミセルロース類の水溶性多糖類も溶け出しています。何が溶け出しているかを調べるのは簡単ではなく、硫酸で加水分解して単糖にして高速液体クロマトグラフィー等で糖の種類を同定して推定することは多少はできます。キシランは、一応、試薬として販売されていますが、樹種が異なると特性も異なるかもしれません。
以上のようなヘミセルロースA、ヘミセルロースB、ヘミセルロースT、ヘミセルロースUなどの呼び方は、近年は資料・論文等でもあまり見ることがありませんが、ヘミセルロースを単離して構造解析して同定することは、最先端の機器を用いても相当に困難なため、用いる材料の簡易的特性評価としては比較的簡単でありながら、意味がある結果も得られることがあります。「木材を◇◇処理すると、ヘミセルロースTの量が増加したことから、低分子化が発生した・・・」など。
ヘミセルロースの分析は難しく時間もかかるため、ヘミセルロースの構造解析がテーマでなければ、簡易法も便利です。木粉等のセルロース系材料を用いて、樹脂複合材料などを製造するような場合は、ヘミセルロース量あるいは種類は、変色や臭いの発生にも影響するため、このような簡易法での値を押さえておいても役に立つかもしれません。
木材成分を分析では、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、抽出物、灰分の量を調べますが、基本的には、その物質がある処理で溶ける・溶けないで分けて、重量から算出します。核磁気共鳴装置(NMR)や赤外分光装置(IR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の高度な分析方法ではなく、単純に重さから判断します。そのため、分析操作には熟練が必要で、とても正確な値を求めるのは、とても難しいです。
以下の図に、木材の各成分の分析方法の概要を示しました。ある成分の量を調べた後の残りサンプルを次の分析に用いるため、どこかで失敗すると、後のデータの信頼性が下がります。
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上記は木材成分の分析法の手順です。示した方法は、木材成分の分析方法として古くから知られている方法です。
1.最初に、木材に含まれている無機成分を灰分として算出します。サンプルを「ルツボ」に入れて電気炉で有機物を600℃程度で除去します。秤量瓶は、灰分が入ったままで秤量して灰分量を算出します。電気炉で処理した後は、厚いのでデシケーター中で、水を旧チュくさせ内容にして放冷します。
また、抽出物は、サンプルをソックスレーで抽出して、抽出物の重さを量り、算出します。ソックスレーの溶媒は、昔はアルコール(エタノール)−ベンゼンの1:2の混合液が使われ、アルベン抽出とも言われていました。現在、ベンゼンは特定化学物質のため、トルエンが代わりに用いられています。溶媒抽出後の脱脂済みのサンプルは、次からの分析にも用います。
2.脱脂サンプルを用いて、硫酸で処理することで、分解しやすいセルロースやヘミセルロースを除去して残さのリグニン量を算出します。
また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて、リグニンを除去して、その残さからホロセルロース量を求めます。ホロセルロースは、リグニン以外の主要成分であるセルロースとヘミセルロースの混合物ですが、リグニン除去方法を的確にしないと、ホロセルロースの量が変化して、後々のセルロースやヘミセルロースの分析にも影響します。
3.ホロセルロースを水酸化ナトリウム水溶液で処理してヘミセルロースを除去し、残さの重さからα-セルロースの割合を算出します。ヘミセルロースの割合は、ホロセルロースの割合からα-セルロースを差し引くことで算出されます。そのため、ホロセルロースとα-セルロースが正しく求められていないと、ヘミセルロースの値も誤差が大きくなります。α-セルロースの表記も最近はあまり使われてはいませんが、α-セルロース=セルロースとされる場合が多いです。
処理後の水酸化ナトリウム水溶液に酢酸添加して、β-セルロースやγ-セルロースが算出できますが、最近はこのどちらも使われている例をほとんど見ません。
4.全セルロースの割合は「植物原料の成分組成分析法4」に示したような方法で求めることができますが、この値も最近は使われている例が少ないです。
5.「植物原料の成分組成分析法5」には、成分分析の全体スキームを示しています。このように、ある処理をした残さやろ過液を、さらに分析していって、セルロース、ヘミセルロース等の割合を算出するので、どこかの操作が不十分だと、得られた組成そのものの確度がとても低下します。
「植物原料の成分組成分析法1」から「「植物原料の成分組成分析法4」に示した方法は、巣へ手を実施するととても時間がかかります。操作する人の習熟度が低いと、時間をかけても得られる結果はそれほど意味を持たない場合もあります。実際には、抽出物量、灰分量、リグニン量、ホロセルロース量、α-セルロース(セルロース量とみなす)を求めて、引き算でヘミセルロース量を求めるなどが多く、β-セルロースやγ-セルロース、全セルロース量などが議論される場合は少ないです。
古典的には、木材成分はリグニンとセルロース類で分けてあります。セルロース類は、真のセルロースとヘミセルロースが混合したモノで、媒体に対する溶解性から、α-セルロース、β-セルロース、γ-セルロースと区別されています。
6.「植物原料の成分組成分析法6」にも示したように、木材成分はそれぞれ別々の方法で求められているため、各成分割合を合計してもほとんどの場合、100%にはなりません。また、前述したように、単純にはビーカーと漏斗と天秤を用いる方法ばかりですが、それぞれの操作には化学分析の技術が必要で、慣れているようでも人のクセが出る場合もあります。実際に、品質管理等で、日々、成分組成を行う場合は、習熟した特定の人が一人で行う方が、結果がぶれない場合も多いです。
木材成分の分析法は、組織が変わると別の方法がとられているかもしれませんが、ここに記載の方法は、あくまで概要です。もう少し詳しい基本的な方法については、下記の専門書を参考にすると良いと思います。本書は、現在は入手が難しいですが、多くの大学図書館などには蔵書としてあるようです。
☆参考書籍
「木質科学実験マニュアル」、日本木材学会 編、文永堂出版、2000年4月10日、ISBN4-8300-4094-7/C3061
あるいは
「木材科学講座4・木材の化学」、川田俊成・伊藤和貴 編、海青社、2021年3月、ISBN13-978-4860993177/C3350
木材の主要成分中で、リグニンは、他の糖類から構成されているセルロースやヘミセルロースとは全く異なり、芳香族系化合物です。リグニンについては、古くから研究されていますが、未知の部分がたくさんあります。これまでの研究では、上図に示す生合成された「リグニンモノマー/モノリグノール」が酵素の働きで、ランダムに重合(脱水素重合)したものがリグニンです。ランダム重合のため、世の中に同じリグニンは存在しません。また、分子量も相当に大きく、数万はあると言われています。
、広葉樹、針葉樹、草本(イネ)等の植物の種類により、重合したリグニンモノマーの種類が異なっることでリグニンの組成も異なっています。リグニンの組成を示す場合、Hリグニン(H核)、Gリグニン(G核)、Sリグニン(S核)の用語を使って、「針葉樹リグニンはG 核,広葉樹リグニ. ンはG 核と S 核,草本リグニン(イネ科植物)は G 核,S 核,H 核を持っている」等の説明をします。
リグニンはヘミセルロースとエステル結合等の共有結合で部分的につながっているとされています。この結合は、変質しやすく、リグニンの単離や分析を難しくしています。リグニンの処理方法(分離方法等)が異なると、得られるリグニンも変質します。酸性でもアルカリ性でも変質します。何かの方法で得られたリグニンには、多くの場合、多糖類(ヘミセルロース等)がつながっており、高純度のリグニンのように見えても、硫酸加水分解等すると、多くの場合で糖類が検出されます。
リグニンは、その材料利用方法についても研究開発が古くから続けられていますが、ロット毎に性質が違う、同じ特性のモノが得られない等の品質の安定化が課題と言われています。ひの原因は、同じリグニンが存在していないことと、リグニンの分離や抽出工程で、容易に変質が起きるためと言われています。
最も成功した工業的利用方法は、木材から紙を製造するクラフト法での残さリグニン(ヘミセルロースも混在)を燃料として製紙工場で用いる方法です。このような残さリグニンはその色から「黒液」と呼ばれています。製紙工場のパルプ化工程のエネルギーの3割以上を「黒液」を燃料としたボイラーで賄っています。
上図のリグニンの予想構造(Wikipediに掲載)は、最近の研究では、少し異なる構造が提案されています。詳しくは、以下を参考にしてください。
※名古屋大学、福島和彦 教授、森林化学研究室 / 森林科学研究室・研究内容・植物細胞壁の構造と機能
※J. Ralph et. al., Current Opinion in Biotechnology, Vol. 56, April 2019, pp. 240-249."Lignin structure and its engineering"